一般用漢方製剤承認基準とは、薬メーカーなどが一般用漢方製剤を製造したり販売したりする際の基準で、厚生労働省医薬・生活衛生局が定めたものです。漢方薬の処方名ごとに、生薬の成分・分量、用法・用量や効能・効果が記載されています。
三黄瀉心湯の例を次に示します。
三黄瀉心湯
〔成分・分量〕
大黄 1-5、黄芩 1-4、黄連 1-4
〔用法・用量〕
湯(振り出しの場合 1/3 量を用いる)
〔効能・効果〕
体力中等度以上で、のぼせ気味で顔面紅潮し、精神不安、みぞおちのつかえ、便秘傾向などのあるものの次の諸症:高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症引用元:一般用漢方製剤承認基準より抜粋
私たちがドラッグストアなどで漢方薬を購入するとした場合、どこを見て決めるでしょうか。
通常は、外箱ですよね。表のキャッチコピーを見て、次に裏の「効果・効能」の欄のはずです。
実は、そこには、薬メーカーによっては多少アレンジをしています(太字部分)が、この基準が書かれています。
比較的体力があり、のぼせ気味で、顔面紅潮し、精神不安や便秘などの傾向のある方の高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症に効果があります。
引用元:クラシエの三黄瀉心湯
ということは、この基準の中から自分に合っているものを選べば、今あなたが求めている漢方薬を選ぶことができるのでしょうか?
答えは、NO!
なぜなら、本当に自分に合っているかが分からないからです。
ちなみに、この基準から耳鳴りの「効能・効果」を抽出してみました。
・滋腎通耳湯
体力虚弱なものの次の諸症:耳鳴り、聴力低下、めまい
・当帰芍薬散
体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
・当帰芍薬散加黄耆釣藤
体力虚弱で血圧が高く、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重)
・当帰芍薬散加人参
体力虚弱で胃腸が弱く、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
・当帰芍薬散加附子
体力虚弱で、冷えが強く、貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などがあるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
・八味地黄丸
体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿で、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ
・牛車腎気丸
体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少し、むくみがあり、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)
・苓桂朮甘湯
体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏
・続命湯
体力中等度以上のものの次の諸症:しびれ、筋力低下、高血圧に伴う症状(めまい、耳鳴り、肩こり、 頭痛、頭重、頭部圧迫感)、気管支炎、気管支ぜんそく、神経痛、関節のはれや痛み、頭痛、むくみ
説明分をよく読んでみると、次のようなくだりがあることに気づかれると思います。
体力〇〇で、~があるもの(斜め文字の部分)
実は、これこそが、東洋医学(漢方)で最も重要と考える体質を指しているのです。専門的には、証(しょう)といいます。
「漢方薬は症状だけで判断しないで、体質に合ったものを飲みましょうね~。」
このように言われるゆえんは、ここにあるのです。
しかし、わかりやすい言葉を使っていることが、かえって選定しづらくなっているとも言えます。
というより、多すぎて選ぶのが困難ですよね。
怖いのは、もしも体質に合わない漢方薬を服用すると、治療効果がないだけでなく副作用の危険もありますので、十分に注意して選ぶ必要があります。なにしろ漢方薬は、第2類医薬品ですから。
だからこそ、簡単に購入できるからといってドラッグストアやネットで漢方薬を買うのではなく、漢方専門の病院や漢方薬局で、医師や薬剤師らと時間をかけて相談し、体質に合ったものを処方してもらう方が圧倒的に多いのもうなずけます。